歴 史 的 な 円 安 〜 ど こ ま で 進 む の か ?〜円安の限界値を探る

 9 月 7 日に一時1ドル=144 円台を記録。24 年ぶりの円安水準となっている。果たしてこの円安はどこまで続くのか。独自に分析をしてみた。


 まず、足元の円安傾向は 2 年ほど前から始まっており、この要因を探るべく、あるモデル式を作ってみた。


 その式は以下の通り

理論値=101.22+6.67×日⽶⻑期⾦利差―4.66×貿易収支+1.92×消費者物価指数

             ①         ②         ③

(決定係数=0.98)


 この式の意味は、理論値(ドル・円相場の推定値)は、①日⽶⻑期⾦利と、②日本の貿易収支、そして③日本の消費者物価指数でほとんど説明できるというもの。


 たとえば、直近の 7 月の日⽶⻑期⾦利差は、アメリカの⻑期⾦利が 2.66%、日本の⻑期⾦利が 0.18%なので、差し引き①2.48%。7 月の日本の貿易収支は②1.95 兆円の赤字。そして 7 月の日本の消費者物価指数は前年同月比③プラス 2.6%であった。これをそれぞれ数式に当てはめると、理論値は 131.88 円。実測値 132.78 円とほとんど一致することになる。


 このように「重回帰分析」という手法を使って、為替のモデル式を作った次第だ。 日⽶⻑期⾦利差は拡大方向にあり、7 月に2.48%だったのが、9 月には 3.07%。実に 0.59 ポイント拡大している。①の係数は 6.67 であるため、6.67×0.59=3.94 ポイント。なので、この2か月弱の間で約4円の円安要因となったことを意味している。最近言われている「日⽶の⾦融政策の違いが、円安を招いている」といことが正しかったわけだ。


 貿易収支に関しては直近の 8 月、9 月はまだ発表されていない。また、消費者物価指数に関しても、足元の数値は分かっていない。しかし、このモデル式から逆算すると、直近の1ドル=143 円という水準は、たとえば日本の貿易収支が月間で 3 兆円の赤字、消費者物価指数がプラス 3.8%になるといったかなり強烈なものだ。足元の円安がいかにも「投機的」だったことが分かるだろう…


 では、実際にグラフを⾒てみよう。

 理論値と実測値がほとんど一致している。①日⽶⻑期⾦利差が 1%拡大すると約 6 円円安に なり、②日本の貿易赤字が 1 兆円増えれば、約 4 円円安になり、③日本の消費者物価指数が 1% 上昇すれば、約 2 円円安になるということだ。


 だから、それぞれ①〜③の「限界値」を推定すれば、おおよその「円安のメド」が分かるは ず。


 日⽶⻑期⾦利差は、歴史的に「3%が適切」などと言われている。これだけの⾦利差が生じて いれば、いわゆる「円キャリートレード」が発生しやすく、日本⼈投資家による「ドル債買い」 が起こりやすいからだ。日本は幸か不幸か、「⽶国のお財布代わり」という役割を演じさせられ ており、そういった意味でも、この⾦利差が必要とされている。足元で⽶⻑期⾦利が上昇する 一方で、日本の⾦利はゼロ%近傍。ただ、⽶ FRB はインフレ抑制に躍起になっており、さらな る⾦利上昇も予感させる。同時に来春には「異次元緩和」の⿊⽥総裁が任期を迎え、新総裁のもと、あらたな⾦融政策が実施される可能性が高い。市場が「⾦融正常化」を意識すれば、一 方的な日⽶⾦利差の拡大は終わり、「円買い戻しの動き」も出てくるだろう。仮にオーバーシュ ート(行き過ぎ)したとしても日⽶⾦利差は「4%程度」と⾒積もって良いだろう。


 次に貿易収支に関しては、足元、貿易赤字の増加が顕著となっている。その多くが原油など の資源高の上昇が要因。円安と同時に資源高が進行し、それが再び円安を助⻑するという「ワ ナ」に陥っているような状態だ。


 ただ、最近は原油価格が下落傾向にあり、この資源高による貿易収支悪化は食い止められそ うな雰囲気だ。世界景気が減速しており、それが資源需要の減退を示唆。短期的には貿易赤字 の拡大は避けられそうだ。理論値の推計にも使ったように、月間で「3 兆円程度の赤字」を想定 しておけば十分だろう。 最後に消費者物価指数(総合)は、最近ではエネルギー価格から食料品の上昇へと移ってい る。物価を上昇させる要因はやや変化したものの、基本的にインフレ基調に変化はない。当然、 円安が輸入物価を上昇させるという「内生変数」的な要素があるのも事実だ。いったん円安に 勢いがついたら止まらない――そういったことも十分に考えられる。


 ただ、経済活動における「川上」に位置する企業物価指数は 8.6%。これが「川下」である消 費者物価にすべて反映されるのは難しい。原材料の上昇を企業が被っているケースが多いから だ。だから、消費者物価の上昇率のピークは一応、この 7 月時点での企業物価指数「8.6%」と しておきたい。


 これらを前提に、先ほどのモデル式に数値を代入すると、以下のような計算式となる


 理論値=101.22+6.67×日⽶⻑期⾦利差―4.66×貿易収支+1.92×消費者物価指数

               4         -3        8.6

=158.43 円


 もちろんこのモデル式に無理があることは十分に分かっている。たとえば、アメリカの貿易 収支や物価指数には言及していないし、GDP 比などの経済規模をまったく考慮していない。


 ただ、より物事を単純化することによって、我々が気にしている「円安要因」を的確に組み 込めている。「⽶⻑期⾦利が上昇したら円安だとか、貿易赤字が拡大したら円安、物価が上がっ ても円安だよね」――こういったことが具体的に入っているのだ。


 仮に円安メドが分かったところで、実際にどのような動きになるかは極めて不透明だ。なぜ ならば相場というものは「オーバーシュート」するのは常であり、最終局面では「予想外の値」 をつけることも十分にあり得る。もしかしたら1日で 10 円動くような「極端な動き」をするか もしれない。得てしてそういった「特異日」が円安のピークだったりもする。そのような「マ ーケットの特性」も十分に考慮しながら、激動の為替相場と付き合うようにしたい。

                      株式アナリスト ⿊岩 泰 22 年 9 月 11 日


当レポートは⿊岩泰本⼈の個⼈的な⾒解であり、投資等を勧誘するものではございません。 投資の最終判断は自己責任でお願いいたします。識別番号 38636048

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